-
006Two
Typologies of the Small Urban House in Japan 

日本語⇄狭小住宅の2つのタイポロジー緑の家<p> 「緑の家」は東京に建つ戸建て住宅である。敷地面積は49㎡、建蔽率50%であり建築面積は24㎡程度となる。そのため、この住宅はいわゆる狭小住宅に分類されるだろう。東京においては高い地価のため狭い敷地に住宅を建てることがすでに一般化し久しい。それでは、具体的に狭小住宅という実践では何がおこなわれてきたのだろうか。</p><p>日本における建築家の狭小住宅には、少なくとも二つの異なるタイプがあるように思われる。ひとつは「スキップフロア型」であり、もうひとつは「垂直コア型」である。どちらも限られた敷地を最大限有効活用する形式であるが、その考え方は大きく異なる。</p><p>「スキップフロア型」では、床の高さをずらして立体的に空間を連続させる。その源流のひとつは、アドルフ・ロースのラウムプラン(RAUMPLAN)に見ることができる。ラウムプランの空間概念では、各部屋は機能によって適切な高さが異なることから、部屋が異なる高さに置かれ数段の階段によって連続していく。日本では、池辺陽の「立体最小限住宅」(1950年)に見られるように、戦後の限られた条件の中で、吹抜けや上下の連続によって狭さを克服しようとする試みが現れる。これは、部屋を平面的に並べるのではなく、小さな容積の中に複数の場所を立体的に配列する態度である。</p><p>スキップフロア型の魅力は、高さの変化がそのまま場所の差になることである。壁で区切らなくても、床の高さ、天井の高さ、視線の角度によって、ひとつの空間の中に複数の性格を生むことができる。数段の段差は、移動であると同時に、腰掛ける場所、見下ろす場所、見上げる場所になる。狭小住宅においては、部屋を増やすことよりも、ひとつの空間にどれだけ多くの状態を重ねられるかが重要になり、スキップフロア型はそのための有効な形式である。</p><p>一方で、スキップフロア型には明確な弱点もある。床を細かくずらすほど、大きな一枚の床は得にくくなる。家具を自由に置き替えること、複数人が同時に異なる行為を行うこと、将来の使い方の変化を受け止めることに対して、床の分節は制約にもなる。スキップフロア型は断面の豊かさを得る一方で、この大きな床の自由を失いやすい。</p><p>それに対する垂直コア型は、複数の床を積層し、それを垂直動線(典型的には、らせん階段)がつらぬく形式である。東孝光の「塔の家」(1966年)は、このタイプを考えるうえで最も明快な作品である。「塔の家」は、わずか20㎡の土地に建つ延べ65㎡の塔状の住宅であり、地下1層、地上5層を積み上げている。</p><p>それはつまり、住宅を小さな高層建築として扱う形式である。積層した階段は高層ビルにおけるエレベーターが基準階をつらぬき有効床面積を最大化するように、各階を垂直に貫通して各階の水平面を最大化する。この形式は東京の狭小敷地だけに固有のものではない。ベトナムのチューブハウスのように、狭い間口、深い奥行き、隣家に囲まれた敷地では、機能の垂直化や内部の吹抜けによって、採光と通風を確保する設計が発達している。</p><p>垂直コア型の利点は、スキップフロア型とは逆に、各階に明快な床を確保できることである。動線を垂直方向にまとめることで、それぞれの階には比較的まとまった床が残る。ルイス・カーンの考え方を援用すれば、階段がサーヴァント・スペース、床がサーヴド・スペースというヒエラルキーをつくり、各階の床をできるだけ自由な場所として残している。スキップフロア型が床をずらして空間を豊かにするのに対し、垂直コア型は床をまとめて使うことを優先する。</p><p>しかし垂直コア型にも欠点がある。レム・コールハースが『Delirious New York』において喝破したように、高層ビルのエレベーターは上階の水平面を解放する装置であり、各階が互いに独立した世界を持ち、相互に無関係であることが示される。まさにこの問題と同型に、垂直コア型の住宅においても、垂直動線でつながれた水平面同士の関係は希薄になりやすい。</p><p>つまり、スキップフロア型と垂直コア型は、それぞれ異なる裏返しの長所と弱点を持つ。スキップフロア型は断面の豊かさを得るが、大きな床を失いやすい。垂直コア型は床を明快に確保できるが、階同士が断絶しやすい。この二つは、狭小住宅における立体化の異なる回答であり、どちらか一方に還元することはできない。</p><p>ただし、優れた狭小住宅を見ていくと、この二つのタイプの違いを保ちながらも、ある共通した操作が見えてくる。それは、階段を単なる動線として扱わず、生活のシークエンスとして織り込むことである。たとえば、先に触れたように「塔の家」は垂直コア型の白眉であるが、階段は動線であると同時に実際の生活の場にもなっている。</p><p>スキップフロア型においても同じことが起こる。藤本壮介の「House NA」では、21枚の床板が異なる高さに配置され、それらが階段や梯子によって結ばれている。この床板は家具のようなスケールを持ち、移動、腰掛け、作業のための場所として働く。ここでは、階段は単に上下を結ぶ線ではなく、床、家具、段差、居場所が連続し、身体はその中を選びながら移動する。スキップフロア型と垂直コア型は異なるタイプであるが、優れた作品では、どちらにおいても階段自体が居場所になりつつ、全体としての住体験のシークエンスを豊かにしている。</p><p>「緑の家」は、この二つのタイプの関係を踏まえた住宅である。基本的には、各階を明快に積層する垂直コア型を採用している。敷地が小さい一方で高さ方向には余地があるため、1階、2階、地下、屋上をそれぞれ独立した床として確保することが法規的にも可能であった。これは、狭小住宅において失われがちな大きな床の自由度を残すためである。特に1階のダイニングキッチンは、多くの人を招くことができるよう、それ以外の機能を排除した。</p><p>その上で、各階にはロフトが挿入され、吹抜けや高低差を生じさせている。そして、それらを繋ぐ階段を折り返し、位置をずらすことで床間の移動を生活に連続した体験をシークエンスとして編み込もうとした。つまり、階としては明快な床を確保しながら、その内部にスキップフロア型が持つ断面的な豊かさを折り込もうとした。大きな床を失わずに、ひとつの階の中に複数の高さ、視線、居場所をつくる。それがこの住宅における二つのタイプの引き受け方である。</p> -
005Online /
Offline Urban Space 

日本語⇄都市空間のオンライン/オフラインNewAns西新宿<p> このプロジェクトは2023年の中ごろから始まった。そのころにはある程度コロナは収まっており、web会議サービスをはじめとした諸技術が浸透し終わっていたような気がする。これらの技術の浸透を生活のオンライン化と呼ぶとすると、日常生活や仕事、あらゆる現実の都市体験(オフライン)のオンライン化が急速に進んでいた。</p><p> 明治維新後に西洋の文化が流入し混然一体となって、今となっては一つ一つの習慣や生活様式の起源を問うことが無意味であるように、今後は都市体験のオンライン化や、オフラインとオンラインを区別すること自体が無効化されるほど、両者は一体化していくだろう。</p><p> クライアントはYoutube配信やSNS、web会員サービスなどのオンラインのトレーニングコンテンツを手掛けていて、満を持して実店舗を出店しようとしていた。つまり、オンライン→オフラインの順番で事業展開を進めていて、それは現実の一歩先の姿に見えた。オンラインとオフラインが等価に、そして相互補完的に関係しあうことに面白さを感じた。</p><p> そのため、都市体験とオンライン体験が相互に関係しつつ、しかもそれがさも当たり前であるような、“普通に”達成されている、未来の日常を想像してデザインに取り組んだ。</p><p> 配信が出来る個室ブースはガラス張りとして、オンラインのゲストも日ごろから見慣れている、初めて来るのに知っている場所とした。壁面のロゴは配信時に適切な大きさに見えるが、実空間だとオーバースケールになり、そのギャップをあらわした。</p><p> トレーニング後に写真を撮ってSNSにアップするまでをトレーニング体験と捉えて、特徴的な「めくれ壁」をエントランス脇に制作し、また、トレーニングエリアの壁に取りつく扉も取っ手・枠の無い天井までの建具として、撮影時に純粋な背景となる壁にした。</p><p> 長時間同じ体勢で運動するバイクやトレッドミル等の有酸素運動は、新宿中央公園と都庁を望む角に配置し、ゲストは都市を眺めながら飽きずに運動できる。それと同時に、街路からはその運動している姿が見える、運動する人自体を街のファサードとした。</p><p> オフラインの実店舗の中に、オンライン体験を織り交ぜてひとつにすることで、より強固な都市体験を生み出そうとした。</p> -
004Tie,
Hook, Weave 

日本語⇄むすぶ・ひっかける・あむDesty銀座新2号店<p> Desty銀座2号店がテナントビルの契約更新が出来ず退去を余儀なくされてしまったため、急遽新店舗を作ることとなった。事業計画上見込んでいない出費のため、予算は無い。最初から工務店への依頼はあきらめ、関係者によるDIYが前提である。解体もせず、壁・床・天井の仕上げ、照明、空調などの設備もそのままで、仕切りによって空間を分節してパーソナルトレーニングとグループレッスンができる状況を作り出す必要があった。</p><p> パーソナルとグループを両立する仕掛けとして、蔀戸から着想した上下に跳ね上げられる仕切りを部屋の中心においた。ワンアクションで天井にひっかける/おろすために帆布の上下に木の棒を通しておもりを兼ねた持ち手とした。このアイデアをきっかけに、さまざまな色・テクスチャ・重さの仕切りがその場その場にバラバラと存在するあり方を考えた。</p><p> 部屋の既存レイアウトの都合上、窓際にスタッフの荷物や収納が置かれる。下半分を合板、上半分をポリカの仕切りとして自然光は室内まで届かせつつ、トレーニングエリアから見えない仕掛けとした。窓際のコーナー部分は時間によって様々な方向から自然光が差し込む。その時々によって表情を変える半透明の玉虫フィルムで部屋を分節し、その背後に小さな植栽を置いた。Desty銀座2号店で特徴的な木の造作建具を解体し運び込み、今度は部屋の角に着替えスペースの仕切り壁として再利用した。トイレ前がそのまま見える仕様であったため、心理的な距離を作るために編み物用のチャンキーヤーンで木の棒を編み込み、タペストリー状の仕切りを天井からつるした。</p><p> そして、それらバラバラなものを1つに繋ぎとめて空間に構造を与えるため、全ての素材を「穴をあけて紐で結ぶ」という単一の手つきで扱った。DIYのための施工性という、必要に迫られて生まれたこの単純な納まりによって、思いがけず、自分の手で物を作る喜びを再発見することが出来た。</p> -
003The
Ultra- Three- Dimensional Interior Space of a Old Wooden Commercial Building 

日本語⇄木造商店建築の超立体的内部空間Yagisawa Showcase<p>駅のプラットフォームからよく見える、築50-60年の木造店舗に構造補強を伴う改修を施し、テナントとして貸し出せる状態にすることが求められた。このような昭和に作られ駅前に密集している小規模木造商店建築は、ある種どの街にも存在し記憶の中の街並みを構成する一方で、テナントがいなかったり常連の客だけで賑わう入りにくい店だったりと、今となっては街の活気に貢献しているとは言い難い。</p><p>既存建物は何の変哲もないフラットな外観の建物であるが、中に入ると増改築が繰り返され、柱がずれていたり、急勾配な階段が錯綜したりと、立体的な空間が広がっていた。もう少し観察してみると、これまでに変わっているもの・変わっていないものがあることが分かった。梁と外周の柱は各階の柱を受け、また外壁ラインを規定しているため、変更されていない。逆にそれ以外の内部の柱・床・開口・建具・階段は何かしら手が加えられていた。外周の柱と梁で各階が規定されているので、各階はそれぞれの都合で柱を含め自由にレイアウトすることができ、その結果それぞれの階が整合していない立体的な内部空間が生まれているのである。</p><p>これを可能にしているのが木という素材である。柔らかく加工しやすいため、特殊な技能が無くても住み手が自由に改造していける。そして、内部が立体的ということはそのための取っ掛かり・下地が十分に存在することを意味する。</p><p>この立体的内部空間と木材の加工性の2つが正のフィードバックを繰り返し、超立体的な内部空間に結実したのだと思う。</p><p>今回の操作としては、この融通無碍で豊かな架構をより強調するようにエントランスの上部の床を抜き、人を迎え入れる場所とした。また床を抜いた部屋の押し入れ部分はそのまま残し、白く塗装して駅からよく見えるショーケースに見立て、立体的な木の架構と街を直接繋げることを試みた。</p><p>このような建物は特殊なものではなく、むしろ駅前にありふれたものだと言えるだろう。それらが集団としてオープンに開かれた際に駅前体験がどのように変わるか見てみたい。</p> -
002Finishing
with Light
日本語⇄光で仕上げるDesty中目黒店<p>テナントビルは数十年前に建てられた小さな雑居ビルで、スケルトン状態であった。検討を進める中で、トレーニングに必要な適切な硬さの床と最低限必要な個室・トイレの仕切り壁新設、各種設備費で予算のほとんどを使ってしまうことがわかった。</p><p>そこで、不可避的に見えてしまう既存のコンクリート躯体をどう扱うかがテーマとなった。</p><p>まずは、荒々しい躯体を背景に後退させ家具や植栽などで空間を設える方向性や、躯体をモルタル補修してインテリアとのキメを揃える方向性、すなわち、閉じた空間内に一つの世界観を作り出すことを検討した。</p><p>その時に問題になったのが、既存のサッシであった。</p><p>既存のサッシは生活感のあるシングルの網入りガラスで中桟があり、ガラスにはひび割れ、フレームにはゆがみがあった。つまりは即物的すぎるためにどのようにその他を設えたとしても馴染まないのだ。当然、サッシを取り替える予算はない。</p><p>あるいは、この即物性を逆手に取り、仕上げる部分と仕上げない部分を明確に分け、その解像度の差を表現することも考えたが、これでは店舗としての差別化は出来たとしても、“デザインのためのデザイン”になってはいないかという疑念があった。</p><p>ノイズが少なく集中できる環境で、自らの身体に向き合うというトレーニング行為の質を高めるような、上品なスケルトン空間を作れないだろうか。</p><p>初心に帰り改めてそのような考えのもと、ファブリックで既存サッシの存在感を弱めつつ、透過した柔らかい光で空間を満たすことにした。</p><p>場所ごとに質感・軽さ・透過性の異なる4種類のファブリックを選定しワイヤーで吊るして、布と光とその後ろに透ける力強い躯体だけの空間を試みた。</p> -
001Creating
Only the Ground
日本語⇄地だけを作るDesty銀座2号店<p>プライベート/パブリック、あるいは図/地の配列やその関係性を生み出すことが建築設計の大きなテーマの一つである。</p><p>Desty銀座2号店においては、早々に個室の与件(2.6m×2.6mの箱状空間+パーソナルトレーニングに集中するために開口を持たない)が定まったため、路地状の地だけを作るということを考えた。</p><p>良い“地”とは多様な行為を受け入れつつ、そこにいる人々が居心地の良さを感じる場所であるだろう。そのため、直線上の見通せる空間・広くて集まれる空間・回遊性があり歩き回れる空間・行き止まりで見られない空間など、様々な性質の空間を組み合わせて設計をおこなった。</p><p>ただし、それだけでは地“だけ”にはならない。図としての個室が存在する以上、それらとの関係性が生じるからだ。</p><p>そこで、個室を“消す”ことにした。まず、制約から個室の壁は天井まで作ることが出来なかったのだが、その場合普通であれば縦材と横材でフレームを組むことになり、個室の構造があからさまに見え、その存在が意識される。それを避けるため、床に固定された木ピースにリブ状の縦材をはめ込む形で強度を担保し、個室は床からの片持ちだけで成立させた。</p><p>扉には構造のリブ材と同様のものを化粧として取付け、隠し扉のようにして存在を意識させないようにした。構造と化粧のリブを同寸法・同ピッチにして混在させ、部材の意味を曖昧にすることで純粋な地だけを作ることを試みた。</p>